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佐野洋子

私の大好きな作家、佐野洋子。

武蔵美出身の絵本作家で『100万回生きたねこ』が多く知られる。

私は彼女の絵もリトグラフも大好きだけど、やっぱり、 文章が好きだ。

彼女のエッセイは殆んど読んだ。
もう10年以上前だけど 『ふつうがえらい』を読んで、美大受験を乗りきった気がする。


彼女の文章は、全く飾らない、術の無い、それなのに、選ぶ言葉を並べたら、
どんな詩より美しく強く心にゆきわたる。
当たり前のことを、ただ当たり前に書いてるだけなのに、
どうしてこんなに面白いのか、愛しいのか、とても不思議。
読み終えるといつも、
栄養のある美味しい食事を済ませた後のような気分になる。

絵本以外はエッセイがほとんどだけど、
時々絵の無い絵本のような短編集もある。
『嘘ばっか』はグリム童話を彼女がパロディにしたもの、
というより彼女が解釈して書いたもの。
原作よりずっとおもしろい。

そして、必ず切ない。

最近、若い作家さんの書いた恋愛小説を久々に読んでみたけど、
恋愛小説なのに、切なくなかった。
ただ、こんなことが現実にあったら嫌だなってだけの感想。。
そしてなぜかどこかで聞いたことのあるような内容…。

彼女のエッセイや短編集は、ただただ彼女の日常思うことや
生きてきたことが書いてあるだけなのに、ドキドキするし、切ない。

私は多分、恋愛小説よりも、
1人の人が生きた本当のノンフィクションに切なさを感じるんだ。

そして彼女の生き様は、真似できそうで、なかなかできない。


戦時中に生まれ育ち、物凄く過酷な幼少期 (本人は不幸と思っていない)、
兄弟の死、美大時代、結婚、出産、離婚、彼女を取り巻く家族や他の人々、猫と犬…
楽しいことも、死にたいことも、全部受入れなきゃ、それが生きることだと教えてくれる。

大切な人の死を凄くリアルに伝えてくれる。
どんなにあっけなく、残された者がどんな風に感じるか。
出産を恐ろしくも最高に楽しいものだと教えてくれる。死んでも子を産みたくなる。


彼女は自分で、趣味もなくただ読書をしてだらだらしていたい暗い人間だというけれど、
私はそんな佐野さんが大好きだ。だらだら読書をしている彼女の中に、
どんどん見たことも無いすてきなユーモアが生まれていくのだと思う。



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先月出た新刊、『シズコさん』。

今回のこれは、いままでとちょっと違う。

それは 彼女の母親が主人公であるから。

読む人を楽しませるというよりも、
いつも以上に彼女は自分のためにこれを書いたかのような赤裸々っぷり。
彼女の人生の中に、母がいて、父がいて、家族がいたのだと言うことを、
ずっと心に刻み付けるように記録してある。そして70過ぎにして、素晴しい記憶力。
4,5歳の頃のことをこんなに鮮明に覚えてること、五感が憶えていること?
きっとそれだけの体験をして、強い感受性がずっと記憶しているのだろう。


私も母親との関係にどちらかというと悩まされている方。昔から。

彼女のお母さんとの関係とは違うけど、

結局、母親に、何も望むなって事が書かれている様な気がした。
母親なんて、という意味でなく、
母というだけで、母親はすごいんだってこと。
好き嫌いは別として、無条件の何か。

そしてそれは多分、娘である自分が、大嫌いであろうとも、誰よりも知っている何か。


母と娘は刺々しい。

うちは結構刺々しい。


この本で、また佐野さんに、良くも悪くも諦めさせてもらえたから、
また明日から自分なりに生きようと思える。
by giddy_girl | 2008-05-20 22:21 |
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